爺放談

電話により担当の方とアポが取れ、数日後多少の時間を割いて戴き、会える段取りが取れました。

私の営業手段は概ねはマニュアル通りの手段を取りますが、私にはどうしても落としたい会社には特別な手法を取り入れ、少し変わった営業方法を取っていました。

その営業のコンセプトは「いかにその相手を喜ばし、笑わせ、誰よりも記憶に残す」

そしてその手法はレベル５まで有り

レベル１・・・相手の名詞から名前の由来を作成し、色紙にして渡す。

結構人というものは自分の名前に無頓着で、しかしあらたまって自分の名前が色紙に書かれ、しかもその名前に由来などと書かれていては誰でも気になるものです。

その由来の根拠は曖昧なものですが一応漢和辞典を用い、名前の一字一字の持つ意味を書き、最後はその全てに私なりの解釈を入れ、総評としてその名前の持つ意味を、極めて良い物という風に書き入れた色紙なのです。

私のこの手法はこれまでの新規営業の中で数回取り入れ、レベル５に達する前にどれも契約を取れた実績があり、成功率１００％なことから自信を持っておりましたが、しかし、その手法はあまりにも手間が掛かる為、やはりここぞと言う時にしか出せないのです、また、それらの成功例は全て中小企業でまだ大企業へは試してません・・・

ですからどうしてもこれを大企業で試した見たいと言う思いもあって、大企業に挑戦した経緯もありました。

しかし何にしてもこの手法は、担当に会う２回目からの作業になりますので、今回のこの一回目のチャンスはどうしても物にしなければ・・・・少なくとも２回目の布石は絶対置いていかねばなりませんでした。

私は大企業のそのまだ見ぬ担当者を頭に浮かべました。

私の様な営業達の話を毎日の様に聞き、そのほとんどの営業マンは軽くあしなわれ、すごすごとその会社を後にする営業マンたちの姿を・・・・・

私は何を考えてもその手練れを攻略する術が思いつかず、そして数日が過ぎアポの取った当日が来たのです。

私は普段よりおとなしめのスーツをまとい、カバンには会社案内とカタログ、そして緊張の為にもようさない様トイレに行って準備万端整え、私の乗る営業車は約束の時間の２０分前に相手先の会社の門をすり抜け、駐車場に止めました。

そして私は社屋の正面玄関の重たく分厚いドアを開けました。

そこにはだだっ広いロビーがあり、正面奥に受付嬢が２人静かにこちらを見てます。

そのロビーにはブースで囲まれた簡易的な打ち合わせ用と思われるボックスが何箇所かあり、そして待合席が数個。

天井は高く、さすがビルメンテナンス業界１位だけあって、そのロビーの隅から隅まで管理が行き届いた、まるでちょっとした高級ホテルのロビーを思い浮かばせるほどの綺麗さで、しかしその高級ホテルとの大きな違いは、この場所は静寂がロビーを包んでいたのです。

私は受付まで歩いて行く時、私の革靴の足音が此処を包む静寂を破った時、私の汗ばんだ手はさらに汗が床に滴り落ちるのでは？と思うほど手は汗でびっしょりでした。


「いらっしゃいませ・・・今日はどの様なご用件でしょうか？」

「は・はい・・・先日御社の用度担当の○○様にアポを取らせて頂き、今日の○時にお会いする約束で参りました○○リコーの○○と言います。」

「わかりました・・・それでは今確認を取らせて頂きますので、どうぞそちらでお待ち下さい」

「は・はい」


私は数あるブースの一つに招かれそこで待つよういわれました。

多分、私の様な初めての営業マンは上階にある会議室まで通されず、ここで全てを済ますのでしょう。


そしてしばらくしてその担当の方がやってきたのです・・・・・