爺放談

私は早速担当者の名詞から私独自の営業法レベル１の名前の由来の作成に取り掛かりました。

少し高級感を漂わせる色紙に、私の創作した由来を毛筆で書き込み、全体としては「あいだみつお」を連想させる作風に仕上げたもので、家の玄関の壁に飾ればちょっとしたインテリアにも使えそうな程の仕上がりで、事実これまでこれを送った方々にも大変好評を博した物でした。

私は２回目のアポの電話にもタイミングを何時も考えており、だいたいこれまでの経験で御礼状の届いてあろうその日から一週間後を目安として、ほとんどの事務所関係に従事している方々が一段落終えた時間帯１４時から１６時の間に電話を入れるようにしています。

「もしもし、○○リコーの○○と申しますが用度担当の××様はおいででしょうか？」

「はい、少々お待ち下さい」

それでもやはり、そうは言ってくれましたが社交辞令で言ってくれたかもしれません、何かの理由をつけて会えない旨を告げられるとそれ以降の電話が凄く躊躇されます。

私は担当者が出るまでの数秒が凄く緊張するのでした。

「はい、お待たせいたしました」

「はい、その節は誠に有難うございました！○○リコーの○○です！」

「あ〜！リコーさん、いえいえ、大丈夫ですよ！それで今回は？」

「いえ、大変申し訳ございません！先日申していただけました事で、もし宜しければ××様のお手隙なお時間がございましたらまたお伺いさせていただければと思い連絡したしだいなのですが・・・・」

「あ〜！あのことね、あー良いですよ！明日のこれぐらいの時間帯でしたら時間も取り易いですから」

「あ！そうですか！有難うございます！では明日の○時にお伺いさせていただきますが宜しいでしょうか？」

「かまいませんよ！でも次は何の話ですか？」

「いえ、私と致しましてはお会いできることが嬉しいですので」

「なんか気持ち悪いですね〜その趣味はありませんよ」

「いえいえ！そんな意味では＾＾」

「分かりました！お待ちしております」

この反応はさすがに私も良すぎるので少し面を食らいましたが、やはり御礼状の効果があったとして前向きに考えることにしました。

そして次の日・・・・・

「すみません！○○リコーの○○と申しますが、用度担当の××様をお願いします」

「はい、少々お待ち下さい、今お呼びします。それまでそちらでお待ち下さい」

またこの前と同じブースで待たされた私は一回目の時とは違い、少し余裕がありましたのでこのロビーやその他の事まで気を配って見て気付いたのですが、やはり大企業の表を飾るにふさわしいその受付嬢はかなりの美貌の持ち主で背もすらっと高く、何よりもこの静寂が包むロビーに一際響くその声は大人の匂いを漂わせ、声だけでも惚れてしまいそうになる方でした。

「すげ〜な〜！あんな美人とは一生に一回ぐらいお手合わせしてみたいもんだな」

「さすが大企業は違うね！俺の事務所とは大違いだな」

そんな馬鹿なことを考える私はまだ２回目なのに本当に骨の髄まで変態なのです・・・

「お待たせしました」

「あっ！すみません！またお言葉に甘えさせていただいて・・・」

「はは！良いですよ！私もこの時間は少し余裕がありますので！」

「どうもありがとうございます」

「あ〜！そういえばハガキ有難うございます。なんか筆で書かれたハガキなんて久しぶりに見ました、貴方の会社ではみんなこの様な事をするのですか？達筆で驚きましたよ！これは貴方が書かれたのですか？」

「はい！恥ずかしながら私が書いてます、しかし私の会社全員がこの様な事をするわけではありません」

「そうですか、いや〜全員するべきだと思いますよ、これは良い試みだと思いますよ！うちの営業にもこれをするように勧めようと思うぐらいです」

「そう仰っていただけると幸いです」

「本当にそう思うな〜・・・で、今日は？」

「いえ！すみません、お忙しいのにお付き合いしていただいて・・この前とそれほど違いはありませんが今回の目的は率直に申しまして私を覚えていただきたいその一心でお伺いさせていただきました」

「貴方は正直な方ですね、その話は人によっては無礼に値する話ですよ！貴方の暇つぶしに付き合わされていると解釈する方もいますよ」

「はい、その通りです、そう思われる方もいらっしゃると思います」

「では、私がそう思っていたらどうしますか？」

「それはもう仕方が無いことと思います、しかし、私どもが御社のような大企業とお付き合いさせてもらうには、劇的な事でもない以上この様な手段でしか関係を築ける糸口がありません、俗に私等営業が良く言うお茶を飲む関係を築く、失礼ですがこれ以外無い様に思うのです」

「・・・・・・・・」

「その一環としてではありませんが、私は今回作ってきたものがあります。」

「なんですか？」

「今回はこれを御渡しして帰ろうと思っております」


私はあまり仰々しくさせないため自社の茶封筒に入れたその色紙を手渡しました。


「なんですか？これは」

「もし宜しければ明けてみていただけますか？」

「うん！なんだ？・・・・・・・へ〜〜〜これは・・・・貴方が作ったのですか？」

「はい！」

「へ〜〜〜〜！器用ですね〜〜〜！あ〜〜そうか〜私の名詞から作ったのですね」

「はい」

「何か私の名前がこの様に書かれると恥ずかしくなっちゃいますね！貴方はこの様なことをみんなにしているのですか？」

「とんでもない！これは特別な時にしか出来ません！」

「そうですよね〜〜しかし貴方は変わっていますね〜こんな営業マンは初めてです、スゴイな〜〜〜」

「そう言って頂けると幸いです、では今回はこれで、またお伺いさせていただいても宜しいですか？」

「あっ！あ〜！ではまたアポを取ってくれれば・・・・」

「有難うございます！またお伺いさせていただきます、今回もお忙しい中本当に有難うございました！」

「はい・・・・」


私はなんとかこの２回目も無事の切り抜け、次に繋げる事が出来たのでした。