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ヒモと呼ばないで

9年ぶりに帰ってきました。誰か助けて。

 ■ 2003/12/07 (日) 渡る世間2


いつもの散策から帰り、食事の下ごしらえを終え、何故かその本屋には一冊だけしか残っていなくて、がたいのいい強面のおじさんと遠い間合いから目で牽制し合い、やっと間一髪で手に入れた「Newsweek」のラストサムライの記事を読みながら渋めの煎茶を飲んでいると、妻がほぼいつもの時間に帰ってくる。

玄関を開けるや否や、彼女は興奮した口調でいきなりたたみかけてきた。

「○○が、お金出せって言ってきてるんだってさ!」

亡き叔父のマンションの権利を義母がどうしても譲らないことに対し、彼女の兄(前回は弟と書いたが、間違い)が、権利を放棄する条件として、金を要求してきたというのだ(金額はまだ未定のようだが)。
しかも、それを受け入れない義母に対しこの兄は、今払えないなら娘、つまり俺の妻に会社から借りさせてでも払え、と言い出してきたというのだ。

…おいおい。
妻は、帰ってきた時の勢いをそのまま微塵も落とすことなく話を続ける。

「あの人があんなにがめついとは思わなかった!自分はお祖母ちゃんが死んだときに、すでにお母さんの分まで遺産を沢山横取りしてるくせにそれも返さないまま、まーだよこせって、どういう神経してるんだろう!それもさぁ、あたしに借金させてでも払えなんて、信じられないよね!、大体さぁ……」

夕飯が出来上がるまでの約40分、それは台所に向かって立っていたおれの背中越しにずっと続いていた。
俺はその間、相づちを入れながらも、話があらぬ方向へ行かないことを心の中で念じていた。

それは言うまでもなく「俺が働かなけらばならない」という方向だ。

大げさに言えば、弟である叔父が生きてきた証を出来るだけ長く残したいと思っている(?)理由はともかく、義母がいずれ妻にマンションの権利を譲ることは、亡き叔父と話し合っていた経緯もあるようなので、もし、義母がこのマンションを自分のものとすることが出来たなら、いずれは妻がそれを譲り受けるいうことになるのは、ほぼ間違いないようだ。
よって、ここでこのマンションを取得するのにお金が必要であれば、その一部を妻に負担させる、といいうのも筋が通らないわけではない。

しかし、その負担は「百万円」単位になるようなので、正直、うちの家計にも影響が出ることは必至だ。

その流れでいけば、俺がこのまま「専業」主夫でいるにも限界があるだろう。
っていうか、もう15日から仕事に行くことになってるのか…。

…ひょっとして義母が俺の考えを変えさせるために、話を膨らませて妻に伝えているんじゃないか。
勘ぐり過ぎか。

いや、俺にウソの遺書まで書かかせようとした人だぞ、それくらいやりかねない。

やっぱり、もう里山の落ち葉の「赤」じゃなく、デパートの看板のような生命力を持つ「赤」にならないといけないということなのだろうか。

でも、なれないんだよ。
俺にはもうそんな強い生命力なんかないんだよ。
だから、こんな色しているんだろ。

それに、お前もこんな色の俺を選んで結婚したんじゃないのか。

なんで今さら、ネオンサインのような輝きを俺に期待するんだよ。
もう一度、よく見てみろよ。
そんな色じゃないだろ、俺は。



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