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ヒモと呼ばないで

9年ぶりに帰ってきました。誰か助けて。

 ■ 2003/12/24 (水) 二日目


午後から散策に出る。

と言っても、丘陵などではなく店内迷路散策だが。
迷子っぷりも昨日とほぼ変わらず、といったところ。

受付業務と閉店業務も同様。
子供の使い状態に変化無し。

唯一違うのは「人」だ。
昨日指導してくれた隊長は公休、Aさんは俺と交代する形で帰宅してしまう。
そして今日は、「偉い人」と「無口そうな人」と仕事をする。
どうも二人とも、苦手そうなタイプだ。

でも、俺はもう闘わない。
ちょっと苦手そうな人でも「苦手だな」と思いながら、ただ仕事する。
どうせ闘ったって、勝てやしないんだから。
思い上がるな。

すると、そんなに悪い人じゃなかった。
っていうか、二人とも親切で優しい人だった。

こうなってみると、何故「苦手そう」だなんて思ったのかよくわからん。
こうやって、無駄な闘いを繰り返す癖、治ってないんだな。

この職場には、本当にウマが合わないっていう人はどうやらいないみたいだ。
これだけでもなんと有り難いことか。

そして、調子に乗って、この二人の共通点を発見。
それは俺に「社員になれるよ」と頻りに言うこと。

…準社員で充分です。
俺「主夫」ですから。

少しうち解けだしてきたので、本当に危うくこう言うところだった。

今度本当に言ってみようかな。

…やっぱりやめた。

彼らは「(準社員から)正社員になること」の価値をこれっぽっちも疑っていない。
何故なら、自分がそうしてきたから。
それで、よかったと思っているから。
その上で俺に「社員にもなれるよ」って言ってくれてるのは、間違いなく善意からだ。
俺は彼らとは考えは違うけど、そんな彼らに「社員じゃなくても別にいいです」なんて言ったら、彼らを不愉快にしてしまうかもしれない。
っていうか、大げさじゃなく傷つけるかも。

争いが嫌いでも「傷つけられた」と思うときはじめて武器を取る人は多いと思う。
親切な人達に「赤紙」を、それも自分を攻撃するために出すような真似をするな。

人からの善意なんて、闘わなくていいものの中でも、最優先事項だろ。
そもそも「考え」なんて違ってて当然。
それなのに、その違いの「正誤」を決するために、無闇に闘おうとすることじたいが、サムライ擬きのチンピラのすることだ。

三船敏郎も言ってた。
「上等な刀は、鞘に納まってるもんだ。」

抜かない刀を見ると、全て名刀扱いするのもどうかとも思うが、切れ味を試すための下らない決闘なんかするよりはましだ。

俺が腰に差してるのは、野菜すらまともに切れないような、錆び付いたナマクラだ。
勇も、それを表す技量もない。
わかってる。
だから抜かない。

どうせ抜いても切れないなら、今は刀をひとまず置いて、俺は「武士道」から学んでるのさ。
今日は「第五章・惻隠の心」まで読んだよ。

自分にとっては、自分の気持ちや人の善意を受けることがその第一歩だ。
でも「そのまま」を受け入れることって、難しいよ。

もちろん負け惜しみだけど、環境が急に変わって気持ちが遊びを欲してるんだ。
ちょっとサムライごっこくらいさせてよ。

俺には無理だけど、やっぱりカッコイイんだよ。
サムライ。

憧れるくらいいいじゃん。



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