ヒモと呼ばないで

面接行ってきた。

都内某所。
オフィスは「ザ・昭和の雑居ビル」の3階。
1階は場末感炸裂の飲食店街で、どこから上がっていいのかちょっと迷ったくらい。

“付けりゃあいいんだろ、付けりゃあ”感丸出しなエレベーターを降りると、即左前が入口ドア。
で、入ると、また目の前にイスとテーブル。
それも一昔前の喫茶店みたいな背凭れ付の木製の丸い椅子にこれもこげ茶の丸テーブルだ。
で、即、面接開始。
そう、まさにそのドアのど真ん前で面接が始まったわけだ。

ところが、この佇まいとは裏腹に、面接官は若く清潔感に溢れ、実に真摯に気持ちよく面接してくれた。
勤務地も隣駅から数分だし、日勤だし、土日休みだし、利点も多い。
マイナスは、通常の休日を入れると、年間半分しか働けず、その間、多現場に行かされるってこと。
それでも、強制的に休まされるわけじゃなく余所で働けるから、給料もそれほど変わらない。

一言で言えば、好感触。

何しろ、約ひと月≒インターン途中で辞めた前職とその前会社、どちらに前職確認したらいいか、俺に聞いたくらいだから、ここは俺のいい面を拾って評価する「加算」面接だろう。
(この前の会社とは偉い違いだ)

思わず笑みをこぼしながら帰途に着き、妻に顛末を一気に捲し立ててる、まさにその時。

俺の型落ちSHARPのスマホ、震えまくり。
いつもの12倍くらいブルブルしてたと思う。

・・・前に面接行った会社からだ。

「あ、○○さん、どうも・・・今いいですか？」
「はい」
「○○さんの気が変わってなければ、採用ってことなんだけど」
「は？あ、はい・・・ええ」
「で、と・・・ちょっと待って・・・えーっと、明日の10時に出られるようにしといて。その時今後のスケジュール伝えるから」
「出られるっていうと、そちらの本社にですか？」
「いやいや、電話に」
「あ、電話に・・・はい」
「多分、水木土のどれかから研修はいるから」
「あ、新任研修ですか」
「そう」
「・・・わかりました」
「じゃ、よろしく・・・明日言うから」
「はい、よろしくお願いします・・・ありがとうございました」


・・・採用？。
あれだけボロクソ言っといて、採るんだ。

って、俺もよろしくお願いしますって・・・何言ってんだ。
・・・まぁいいや・・・明日10時までの心決めて、もし今日の会社にするなら、その時はっきり断わりゃいいんだよな。

・・・。

それにしても。

「会社変わっちゃ、辞めの繰り返しか」
「配置変換が問題だっていうなら、警備の仕事に就くってことが問題だろ、あんたの場合」

そこまで言っておいて、採用かい。

・・・。

背後に妙な熱さを感じて振り返る。
なんなんだ、その殺気。
どこの剣豪なんだよ、お前は。

見れば、妻が安堵感を全身の毛穴から吹き出しながら、笑ってる。
「前の会社、採用？行ってね」

ここで実質、今日の夫婦の話はおしまいだったわけだが。

「・・・でも、日勤だから何より体調にいいし、土日休みだから、子供たちとも一緒の時間もやっと持てるし、家から歩いていける現場だぞ・・・こんないい条件他にないよ」

「でも、そこって18日でしょ、合否わかるの。ここ断わって、もしそこも落ちたらどうすんの？」

「いや、多分大丈夫」

「多分って？」

「こんな好感触で落ちたことないよ」

「・・・」

・・・。

自分で言ってて、俺も根拠ない話だと思う。
前職辞めてすぐ、前勤めてた会社に面接してもらった時も、採用されるもんだって思い込んでたからな。
面接だって「これは前と同じですから」「あ、これも分かりますよね」って感じで、淡々と進んで、後は俺の近況と世間話でいい感じだった。
それが逢えなく不採用で、今こうなってるわけだし。


それに、ここは採用でも、3ヶ月の試用期間中は社会保険にも入れないから、自分で国保と年金の手続きしなくちゃならないし。
さっさとしないと、子供たちの毎月の歯医者や急病にも事欠くんだよな。

・・・。

夜勤のマンション警備・・・やったことあるじゃん。
2か所もさ・・・それもその2か所、掛け持ちで。
それも24時間と夜勤の。
今度は夜勤だけだぞ・・・楽じゃん。

それにその日勤・土日休みの会社もさ。
土日に臨時警備入れてくんじゃねえのか？
「じゃ、悪いけど行って」、な感じで。
有無を言わさずな感じで。
夜勤、遠距離関係なく。
今まで、色々な会社で散々見てきただろ。

閑散期の待機も、どこ行かされるか分かったもんじゃねえぞ。
最悪、交通誘導もありうるし。

・・・。

明日、10時。
お電話お待ちしてます。

頑張ります。
どうぞ宜しくお願いします。

・・・はい。