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ワーキングプア 働いても働いても豊かになれない

カテゴリ:議論

「フリーター漂流」の果てに

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 まず最初に、34歳の男性・小山良人さん(仮名)が紹介される。
 ホームレスで短期の仕事をくり返しているのだが、もともとこうだったわけではない。
 小山さんが就職のために出す履歴書がうつるが、そこには「業務請負」という経歴がズラッと並んでいるのがわかる(3年間で7つの工場を転々とさせられた)。ああ、まさに「フリーター漂流」。
 「業務請負」を知らない人のためにいっておけば、請負元会社の集団ごと、別の会社の工場などに送り出されて、工場をもつ会社の指揮ではなく請負元の会社の指揮で働かされるという働き方のことだ。短い期間で仕事内容や仕事場所が目まぐるしく変わることが多い。資本にとっては、機械工程を組み立てるよりも安いコストでできる、まさに「機械以下」の存在である。
 経歴書に「業務請負」という経歴が並んでいるという事実は、業務請負を積み重ねているだけでは何のキャリアにもならないし、スキルの蓄積にもならないことを正確に意味している。
 小山さんはそのために正社員の仕事を得られないのだ。

 たちまち資格や技術を得てこなかった「自己責任」という手慣れた非難が彼を襲いそうだが、「フリーター漂流」を見ていればそんな時間的・金銭的余裕が「業務請負」の世界にはありえないことがわかるだろう。

 番組ではそこまでつっこんでいないが、もともとこのコストは、戦後日本では企業が支払ってきた。学卒者は基本的に学歴に応じて正社員として採用し、終身雇用してきたから、企業内で教育され一人前の社会人=企業人として育てられたのである。
 ところが終身雇用制、正社員主義が解体され、企業はこのコストや責任から「解放」され、すべて個人に転嫁されているのだ。

 小山さんは貯金がなくなり住居を失うとともに、仕事さえありつくのは難しくなる。家がない人を雇う職場は建設現場以外なかなかなく、そもそも彼は埼玉や神奈川に行く交通費が払えず、面接さえ受ける条件を制約されているのだ。

 一番厳しいのは年齢制限だ。ハローワークの映像が出たが、30歳をこえ、34歳になった人間に仕事はほとんどない。
 財界はさかんに「雇用の流動化」によって「多様な働き方ができるようになった」と喧伝するわけだが、実態はこのようなものだ。資本はいくらでも後から押し寄せてくる若い「失業予備軍」を吸収しさえすればいいのだから、フリーター(非正規雇用)は使い捨てである。

 窮した小山さんは、「群馬県邑楽郡……」と、最後にいた住所を履歴書に書く。いったん面接をパスし内定を得るものの、住所の問題をあとで質され、即刻内定取り消しとなった。
 公園でうなだれているこのシーンは哀切をさそう。
 いわばウソをついた格好なのだが、ぼくは、「取り消されるのも仕方がない」とはとても思えなかった。ウソを書かざるをえないという気持ちがよくわかる。

 彼はビルの地下で洗車するという仕事をようやく見つけるが、1日20台の車を洗っても手取りで10万。ほぼ最低賃金ラインで、生活保護水準以下である(まだ家はなかった)。

 番組では、ここで「ワーキングプアが増える背景」として非正規雇用の増大を原因の一つにあげて解説をおこなう。非正規雇用は雇用されている人の3分の1、1600万人におよぶ。「この10年、日本の企業が人件費を削るため、正社員の採用を抑えてきた」という問題の本質も正しくナレーションされる。


投稿者 : 記入なし 日時 : 06/09/02 10:40
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