爺放談

ごく稀にですが私はごく普通の生活の中で、わずかに鼻先をかすめる匂いに敏感になり、その匂いと共に昔の郷愁にふける時があります。

その匂いとは皆さんにも有るかどうか分りませんが、雨の匂い、晴れの匂い、土の匂い、木々や草の匂い、風の匂い、などが私の感覚の中にあるのです。

何時ごろからそんな事を思うようになったかは分かりませんが、私の中にそれぞれの匂いがちゃんと存在し、滅多にはないのですがゴクたまにそれぞれの匂いのどれかに当てはまった匂いを日々の生活の中で嗅ぐ事があるのです。

そんな時は何時も昔を思い出し、何故かすごく懐かしい思いがこみ上げてきます。

なんかいつもは無骨でそんなセンチメンタリズムのかけらも無い私なんですが、その私独自の匂いを嗅ぐとそうなってしまうのです。

この思いを嫁に言った所。

「今、世界で一番そんな言葉が似合わない男が何を言ってるの？」

「い・いや！それは重々承知の上で言っているんだけど、そんな感覚って無い？」

「一切無い！」

「そうか〜・・・無いか〜・・・」

「そんなこと言って、あんた！なんか私に隠し事でも有るんじゃないの〜？」

「えっ？」

「あんたがそんな事を言うのは何かあってそれを隠す為にワザと変な事を言ってるんじゃないの〜」

「そ・それは誤解だ！天地神明に掛けて疾しいことは一切無い！」

「ほんと〜〜〜〜」

ま〜こんな感じで私の嫁にはこの感覚が全く伝わらなかったのです。

私自身この感覚は不思議なのですが、私なりに考えて見ましたところ一応の答えを正解かどうかは別にして持っているのです。

それは私の幼少の頃、まだほとんどの道は現在のように綺麗に整備されてなく、土がむき出しの道ばかりでした。

そんな道路はひとたび雨が降ると直ぐ表面が凸凹になり水溜りがあちこちに出来た物でした。

道端には雑草が生え、ミミズなどが顔を出し、道という道が歩きにくいものでした。

しかしそんな道も雨がやみ、晴れ間がさすと歩き難くしている水溜りもキラキラと輝き何か本当に気分も晴れていく道となって行くのです。

そんな日常の生活の中では土の道から立ちこめる、雨の匂い、晴れの匂い、風の匂い、草や木々の匂い、が家の中でも香ってきて、それが日常ですから何の感慨も当時は無かったのですが幼少の頃から染み付いてきたその感覚が今も残っており、現在同じ様な匂いを嗅いだ時に昔の感覚が呼び起こされているのではないか？と思っているのです。

上手く言葉では表す事はできませんが、確実にこの匂い達はあったように思います。

私の嫁達には分からない事は仕方の無い事でしょう。

嫁達の年代、そればかりでなく現在の３０代も分らないと思います。

その頃はもう舗装された道路ばかりで私の言うそんな匂いの立ち込める要素など全く無いのですから・・・・

もし私のこの感覚が当たっているのなら現代を生きる人々、とりわけ若い年代は自然の持つ個々の香り、何の添加物も入る余地の無い本当の自然の香りを享受できない事は私にはすごく可哀相な事だと思います。

この感覚は、ただ田舎に行って、山に行って付くものではありません。

常日頃から日々の生活の中で何時の間にか付くものであるとおもいます。

現在では滅多に嗅ぐ事の無いこの匂いたち、また、私自身薄れて行ってるであろうこの感覚を大事にしたいものです。

しかしこの感覚は私だけの少しおかしい感覚で他の方々には無いのかもしれませんが・・・・


ま〜どちらにしても少し郷愁にふけってみた今日の日でした。