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ヒモと呼ばないで

9年ぶりに帰ってきました。誰か助けて。

 ■ 2003/12/09 (火) お義母さんといっしょ


11:00少し前、電話が鳴る。
今までに面接した会社の合否連絡は全て済んでいるので、俺は今度こそセールスの電話に違いないと判断し、留守電状態のまま、台所の洗いものを続けた。

しかし、またしても電話の声がよく聞こえないため、油もの洗い専用にしている¥100ショップのブラシを持ったまま、電話口に近づく。

声の主が特定できた瞬間、いつもの平和な午前中のひとときが一変した。
…義母からだ。

亡き叔父に似て、義母が留守電嫌いなことを何故か不意に思いだした俺は、義母が電話を切る前に、濡れたままの手で慌てて受話器を取った。

話の内容は、郵便局に行って、亡き叔父の株の配当金の受け取りをしてきてくれないかということだった。

受取用紙の裏には代理人欄があって、そこに署名捺印すれば、普通は本人でなくとも、問題なく受け取れるらしいのだが、何故か例の義母の兄が(嫌がらせで?)受取人の欄に、もう亡くなっている叔父の名を書き込んでしまったため、重ねて代理人欄に自分の名前を書いていいものか分からないし、かと言って、受取人名を叔父にしたまま、女性である自分が行けば受け取れないから、というのがその理由だ。

…一体何やってるんだ、この兄妹は。

こうして、いつもの葉や木々の音で賑やかな里山散策の予定は消え、代わりに、テレビと義母の一方的な話し声だけが支配する静謐な一日が始まった。

言うまでもなく自分の状況は妻から義母に筒抜けなはずだが、俺は一応自分の口から、警備・ビルメンテナンス会社の採用通知を貰い、15日から研修が始まること、そして、それまでの間は就職活動は完全に止めず、少しでも良い条件を探すいつもりであることを話した。

義母は当然という顔で、おざなりに祝辞を言う。

しかし今日はいつもと少し感じが違う。
確かに、嫌な緊張感を伴う居心地の悪い静けさが支配することには違わないが、彼女の言葉の端々にいつもとどこか違うものを感じる。

諦めとも、励ましとも、達観とも、応援とも、また無関心ともどこか違う。
それをよくこねて、一晩寝かせた感じとでも言うのか。

…俺だけじゃなく、義母も心を痛めているのだろうか。
だとするなら、それが娘や孫をを心配する気持ちからのものであることは、いくら俺でもわかる。
俺が原因で。

俺は義母の考えに従うつもりはないが、別に義母を傷つけたいわけじゃない。
むしろ、元気でいて欲しいと思う。
当たり前だが。
しかし、だからと言って、自分を変えられるわけでもない。

いつもここで混乱する。

……一体何やってるんだ、俺は。

流木にしがみついて、流れに乗ってやっとサバイバルしてるんじゃないか。
流れに抗うなんて、思い上がるな。

泳げないんだ。
この流木を手放すな。

忘れるな。
俺は泳げないんだ。

沈まずに流されているだけでも幸せだと思え。
考えずに、このまま流されていればいいいんだ。


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