【公営住宅入れない!? 高倍率…入居者と負担格差】
住む場所に困ったら、あなたはどうしますか? 低所得者向けの公営住宅に入ればいいと考えるのは、大間違い。全国に209万戸ある公営住宅の入居倍率は年々増加し、入りたくても入れない状況が続いている。特に都市部の倍率は高く、いざというときのセーフティーネットとしては、機能していないのが実情だ。入れる人と入れない人の“格差”は大きい。(村島有紀)
5年間落選
全国で応募倍率が最も高い東京都。都内に住む1人暮らしの女性(73)は、5年前から公営住宅に応募している。公営住宅に入居すれば、家賃負担はおおむね1万円以下ですむと区役所で聞いたからだ。だが、当選しない。年金は月約7万円。民間アパート5万円の負担が重く「一体、どうしたらいいのかわからない」とため息をつく。
もともと全国の公営住宅は、戦後の住宅難に対応するため、ファミリー向けとして建設された。現在は、福祉住宅的な意味合いが強くなり、障害者や60歳以上の高齢者は、単身でも例外として入居できる。
都営住宅の入居に、預貯金などの資産は審査されない。そのため、個人商店や零細企業で働き退職金も年金も少ない高齢者も、数千万円の退職金を受け取り、毎月平均20万円程度の年金を受け取れる元公務員も、持ち家がなければ応募できる。そのためか、昨年9月の単身者向け住宅の応募倍率は平均53.5倍だが、バリアフリーなど設備の整った単身者用高齢者住宅「シルバーピア」は110.5倍に跳ね上がる。
低所得者増
応募倍率が高くなると、働き手の病気や死亡などに備えた、住民のセーフティーネットとして機能しない。
公営住宅の入居対象者は、「収入分位」4分の1(25%)以下の世帯だ。「収入分位」は、総務省の家計調査をもとに、2人以上世帯を収入別にゼロ〜100に分類する。現在は、平成8年の算定値を用い、月額収入20万円以下が対象。障害者や高齢者は、公営住宅を管理する自治体の裁量で40%以下まで引き上げられ、月額収入26万8000円以下が対象となっている。
国土交通省によると、景気の低迷や非正社員化など低所得者層の増加で応募倍率が上昇。9年に2.6倍だった倍率は16年度は9.7倍まで高くなった。
そのため、21年4月からは、入居者の収入基準を大幅に厳しくすることを検討中だ。16年の総務省家計調査を元に算定すると、所得分位25%は15万8000円に、40%は21万4000円に下がるからだ。
同省住宅総合整備課は「収入分位を最新値で見直すことで、応募倍率を4〜5倍程度に下げることができる」と説明する。
個性競えば
公営住宅入居者と民間借家人の“格差”は、家賃補助の有無に表れている。国は、家賃を収入の15〜18%になるよう制度設計しているが、自治体独自の減免措置などがあるため、実際に入居者本人が支払う家賃は収入の7〜8%だ。民間借家人が、収入の約20%を家賃に充てていることを考えると、その差は大きい。
東京都豊島区の区住宅対策審議会会長を務めた内田雄造・東洋大学教授は「入れる人と入れない人の負担の差が大きすぎる。自治体は、公営住宅入居者だけに家賃を減免するのをやめ、高い民間賃貸入居者を援助したほうが、平等性が保てる」と指摘する。
しかし、民間賃貸にも、家賃補助を行うかどうかは、識者のなかでも「家賃が不当に値上げされる」「支払い能力の把握が難しい」などの意見があって実現は難しい。
昨年6月の東京都住宅政策審議会は「民間住宅に対する家賃補助は典型的な所得再分配政策であり、国と一体となって検討を進めるべきである」と答申し、慎重だ。
内田教授は「住宅は、典型的な都市問題。公営住宅を福祉住宅とするなら、全国一律に入居対象者を決めるのではなく、都市部では収入分位15%以下にするなど、いろいろな方法があるはず。自治体ごとに個性を競えばよい」と話している。
■公営住宅 住宅に困窮する低所得者に対し、低家賃の住宅を賃貸供給する制度として昭和26年に始まった。公営住宅法にもとづき、地方自治体が国から建設費の2分の1の補助を得て建設、管理している。
(2007/02/05 Sannkei WEB)
no.36 記入なし (07/02/09 21:21)