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ヒモと呼ばないで

9年ぶりに帰ってきました。誰か助けて。

 ■ 2003/12/28 (日) 誰か


一緒に今から狭山丘陵に行かないか。
ガイドするから。
濃すぎるかもしれないけど、烏龍茶もあるし。

まだ間に合うよ。

誰か行かないか。



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 ■ 2003/12/28 (日) 妻の休日/俺は


妻の休日。
それとは無関係に、俺は後1時間59分で仕事に出かける。

その間に、今日は風呂に入る。
昨日はそのまま寝てしまったから。
日記も書けなかった。

今こうして自分の部屋にいても、仕事中のような感じだ。
職場からずっと続いてる長い長い休憩室のソファーの存在感はますます大きくなっている。

…今日はいい天気だ。
逆方向へ行けば、職場に行くのとほぼ同じ時間でいつもの丘陵に着く。
IDカードをスキャンする必要もなく、いつものように迎入れてくれるはずだ。

…行ってやろうか。

仕事に行くなら、後1時間57分。

俺はどっちに行くんだろうか。


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 ■ 2003/12/27 (土) 行きたくない


後1時間12分で、仕事に出かける。
行きたくない。

っていうか、今も職場からずっと続いてる休憩室のソファーに座っているんだ。

振り返って回りを見渡せば、楽しく出来る家事のネタがいつものようにそこにある。
それなのに「余計なこと」を「苦しんで」やるために、それ後回しにしてわざわざ出かけるのは何故だ。

後1時間10分。
行きたくない。


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 ■ 2003/12/27 (土) 時代


今日は働きだしてから初の休日だ。

イブに妻からもらった「ラストサムライ」のチケットを手に、新宿へ向かう。
劇場は「新宿ピカデリー」。

ここは生まれて初めて洋画を観た所で、作品は「ジョーズ」だった。
本当に恐ろしくて、何度もあのホオジロ鮫に喰われる夢を見た。
サメ狩りのプロ役のロバート・ショーが傾く船体からずり落ち、腰から下をサメにくわえられたまま海に沈むシーンで、サメが彼の身体を左右に軽く揺するのが、リアルで恐かった。
関係ないが。

映画そのものは、言うことはない。
面白かった。

ただ、登場人物の「大村」を見て思ったこと。

「大村」とは、本当に大雑把に言ってしまえば、「サムライの世」を近代化された「新しい日本」に変えようとしている男。
映画では「サムライの敵」だが、彼の行動は「時代の要請」を受けた正当なものだと思う。
成功すれば、財閥である彼の財産もますます殖える、という面があってもだ。

…「主夫」を名乗るとき、心のどこかで「古い男らしさにこだわる『時代』じゃない」、という後ろ盾を感じながら、そうしてる。
っていうか、それを全く感じなかったら、こんな匿名の場所でも未だに言えなかったかも。

そういう空気になったのも、「女性」の力が大きかったのは間違いないと思う。
だから、この言葉、聞き飽きたけど、「男社会」が終わり、「女の時代」の到来っていうのに期待してる。

でも、「男社会」を「終わり」に追い込みたい女の人は、それに変わる「新しい日本」をどうするのか、もっと男の人に具体的に言うべきだとも思うよ。
まさか「アメリカでは…」ってことで、「西洋化」すれば済むと思ってる訳じゃないでしょ。
特に「男性にとってどう変わるか」の中でも「彼らにとってのメリット」に関する説明不足は甚だしい。
義務の話しかしない人をリーダーになんかしないよ。
「だから男の人にも、もっと頑張ってもらって…」っていうアグネスチャンの決めセリフを誰もが気軽に言い続けられるのが「女の時代」だって言うなら、何も言うことはないけど。

「アメリカ」だけじゃなく、日本でも「マニフェスト」とかいう言葉が使われ出したよ。
女の「時代」を生きる女として、それに「責任を負う」気があるなら「そうなることで得られるメリット」を説明してみて。

「女の時代」なら、男性から支持を勝ち取って、その上で、堂々と自分の財産を殖やしちゃえばいいのに。
それがないと、この映画の「大村」みたいに、最後の最後でババを引くかもよ。
時代が圧倒的に味方をしていたとしても。

「男社会」を終わりにしたいなんて言った覚えはないって言うなら、まず田嶋陽子さんの攻撃の矢面に立って男社会存続のために闘ってみてなんて言ったら、言い過ぎかな。

極端な話、新しい時代、どっちで「豊か」になるつもり。
最後に「女は自分の私腹を肥やしてるだけだ」なんて、男に言わせないでね。
そんなこと言う男が悪い?。
そう言わせる「リーダー」の力不足だよ。

経済的に問題ないにもかかわらず、男性が主夫のままで居続けることが、女に人から認められない世の中をさっさと変えてくれ。
早くしてくれないと、俺はそのうち「男らしいふり」をするだけのサムライ擬きのチンピラになってしまいそうだよ。

っていうか時間の問題だよ。

もう4日もそうして過ごしているんだよ。
やっぱり、こんな生活は嫌だ。

…合戦のシーンを思い出すと恐くなる。
迫力があっただろって。
ふざけるなよ。

ただ恐かったよ。

あの時の「ジョーズ」みたいに夢に出てくるかな。

闘うのは恐いよ。

それに俺にはもっと得意なことがあるんだ。
戦場に行かされなければ、鎧なんか必要ないよ。
たったそれでけのことなのに、どうしても闘い見物したいんだね。

だけど、男を闘わせて喜んでるような女に「女の時代」をドライブさせたくない。

「王様の中には首を刎ねられた者が、大勢いる」
何かのTVドラマで見た覚えがある。

女王も例外にしない。

どうしても闘えっていうなら、まずはそう言うお前の首を刎ね落としてやる。
それとも「サムライ」らしく腹を切る方がいいか。

どっちにしろ迫力あるシーンになるよ、きっと。






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 ■ 2003/12/26 (金) ツマミ


うちのオーブントースターと電子レンジは、時間設定を「ツマミ」でする古いタイプのものだ。
それで短い時間、例えば3分とかに設定するには、一度10の目盛りまで回して、それから3に合わせるようしないと、正確な時間が計れない。

職場での俺は、ツマミが故障して、目盛り10まで回せないため、正確に温め時間を設定できない旧型レンジみたいなものだ。

…朝、似合わない制服に着替え終わった段階では、脳みそツルッツル。
昨日までに教わったことをメモを見ながら確認するのが精一杯。
しかし、さすがに4日目ともなると時間の経過と共に徐々に慣れてきて、ようやく身体で覚えたとでもいうような仕事が徐々に動き出してくる。

しかし、だ。

ちょっとした間の悪さを「マーフィー」は逃さず襲って来る。
未知、かつ(比較的)大事な出来事は必ず、「一人」で「複数の仕事が重なって」いるとき起きる。
そうなれば、お決まりの一時的にパニックになり、出来るはずのことまでもが出来なくなってしまうというパターンに陥る。
従業員や来場者の前で(そんなに大それたものではなくとも)失態を晒し、今度は強烈な劣等感に苛まれる。

そして目盛りは「0」に逆戻り。

一日、そして連日、この繰り返しだ。

特にマーフィー君は「発報・電話・雑務」の3つが大好物。

…いきなり、温度異常センサや犯罪防止盤が「ピーピー」大きな音を発する。
びびるって、そりゃ。

だって、どうして止めたらいいか、どうして鳴ったのか、その後どうすりゃいいのか、全部分からないんだから。
今日やっと分かったけど。

…いきなり、内線が鳴り、大声で「4■▽の○○今日来てる」「▽×の○○だけど、××階段まだ通れますか」「俺だけど、○×の携帯番号いくつ」…
焦るでしょ、そりゃ。

っていうか、まずもっとゆっくり、それにはっきり名乗れって。
あなた誰。

…閉店業務であたふたしてるところに「この○○の××ありませんか」。

探さなきゃわかんないって、フツー。
だって、そんなの話に出たこともなければ、見たこともないんだからさ。

仕事を覚えるには、毎日少し多めに「習って」、そのうち幾つかの取りこぼしを前提に少しずつ前に進むというのが結局は効率的だと思う、なんていうのは「甘い」んだろうか。

「OJT」っていうんだっけ、「習うより慣れろ」っていうヤツの横文字。
わかるけど、それでも限度ってものがあるだろ。

「オーバーロードの原則」も言ってるぞ。
「ストレス→休息・回復→(前のストレスに慣れた時点で)前回よりも“少し強い”ストレス」が強くなるプロセスだって。

ところが、実際は「“知らない・わからない”という不安状態KEEP。瞬間的にすごいストレス。回復時間は休息時間(食事と帰宅後)。そしてまた不安KEEP…」

…大丈夫か。

でも、教えてくれる人を責められない。
彼らはちゃんと教えようとしてくれるし、こちらが尋ねたことには、しっかりわかりやすく何度でも教えてくれる。

だから少なくとも常時後一人、もう後一人だけいてくれれば、この「ツマミの故障」は直って、目盛りをひとまず10に回せると思うんだけど。
そうすれば正確に、今日の仕事を計れるよ。
今日何をしたか、に自信が持てれば、次のもっと大きなストレスにも耐えうるんじゃないかと思うんだけど。

会社の理屈がどんなものかは知らないけど「人を働かせる」のが基本だろ。
人員削減だか経費節約だか知らないけど、その個人のモチベーションのツマミもちゃんと回せないようじゃ、まだまだだね。
少なくとも「主夫」なら、個人差はあれど、多くはそのくらいの感覚は持ってるもんだよ。

じゃないと、男のために女が働く、なんて世界は成り立たないんだから。

もちろん負け惜しみだけどさ。














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 ■ 2003/12/25 (木) 残り時間


なんて事だ。
出勤前の時間が「休憩時間」になってる。

正確に言えば「自宅待機」か。
それも、残り1時間と28分。

警備室裏のソファーが長く続いて、自分の部屋まで繋がってる感じだ。

後、1時間27分。
っていうか、もう自宅にいながら既に働かされてるよ、俺。

後、1時間26分。
いや、25分だ。





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 ■ 2003/12/25 (木) 3日目



職場ではろくなことがない一日。
っていうか、もう既に最小限のシフトで回ってる(!)ので、俺は何もわからないまま、一人でベテランとほぼ同じ仕事を任されている。
大体「本来なら1ヶ月かけて研修する」ところを1週間かそこらで仕上げようっていうなら、会社はもう少し人手をかける必要があるんじゃないのか。
教えてくれる方の人にも負担が大きいので、申し訳なく感じる。

トドメに帰る寸前、ついに「マーフィー」の来襲を受ける。
本来こういうときこそ、効率的に仕事を割り振って窮地を乗り越えるのが普通なんだと思うが、俺は何も出来ないので、ただそこに突っ立ているだけだ。
こういう所在なさは最悪だ。

Bさんは「急がない、急がない。分からなくて当然なんだから」と言ってくれるが、そう言われると余計に情けなくなる。

結局、いつもよりも30分送れて帰宅することに。

帰るや否や、妻からクリスマスのカードを貰う。
同封に「ラストサムライ」のチケット。

この映画のことなんて彼女には一言も言った覚えないのに。
何でわかったのかな。
さすがだな。

一方俺は、新しい環境に慣れることにかまけて、クリスマスのことなんてすっかり頭から消えていた。
何も用意してないよ。
ごめんね。

ここでも何もできない所在なさを感じるが、この際、両手を上げて、このささやかな幸福に屈服することにする。
闘う必要なんか無い。
そのまま受け入れる。

闘わない。
このまま寝る。

いい気分のまま寝る。

朝が来れば、どうせこんな気持ちはあっさり一蹴されることになるんだ。
だから、今はこのまま。

このまま寝る。

メリークリスマス。












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 ■ 2003/12/24 (水) 二日目


午後から散策に出る。

と言っても、丘陵などではなく店内迷路散策だが。
迷子っぷりも昨日とほぼ変わらず、といったところ。

受付業務と閉店業務も同様。
子供の使い状態に変化無し。

唯一違うのは「人」だ。
昨日指導してくれた隊長は公休、Aさんは俺と交代する形で帰宅してしまう。
そして今日は、「偉い人」と「無口そうな人」と仕事をする。
どうも二人とも、苦手そうなタイプだ。

でも、俺はもう闘わない。
ちょっと苦手そうな人でも「苦手だな」と思いながら、ただ仕事する。
どうせ闘ったって、勝てやしないんだから。
思い上がるな。

すると、そんなに悪い人じゃなかった。
っていうか、二人とも親切で優しい人だった。

こうなってみると、何故「苦手そう」だなんて思ったのかよくわからん。
こうやって、無駄な闘いを繰り返す癖、治ってないんだな。

この職場には、本当にウマが合わないっていう人はどうやらいないみたいだ。
これだけでもなんと有り難いことか。

そして、調子に乗って、この二人の共通点を発見。
それは俺に「社員になれるよ」と頻りに言うこと。

…準社員で充分です。
俺「主夫」ですから。

少しうち解けだしてきたので、本当に危うくこう言うところだった。

今度本当に言ってみようかな。

…やっぱりやめた。

彼らは「(準社員から)正社員になること」の価値をこれっぽっちも疑っていない。
何故なら、自分がそうしてきたから。
それで、よかったと思っているから。
その上で俺に「社員にもなれるよ」って言ってくれてるのは、間違いなく善意からだ。
俺は彼らとは考えは違うけど、そんな彼らに「社員じゃなくても別にいいです」なんて言ったら、彼らを不愉快にしてしまうかもしれない。
っていうか、大げさじゃなく傷つけるかも。

争いが嫌いでも「傷つけられた」と思うときはじめて武器を取る人は多いと思う。
親切な人達に「赤紙」を、それも自分を攻撃するために出すような真似をするな。

人からの善意なんて、闘わなくていいものの中でも、最優先事項だろ。
そもそも「考え」なんて違ってて当然。
それなのに、その違いの「正誤」を決するために、無闇に闘おうとすることじたいが、サムライ擬きのチンピラのすることだ。

三船敏郎も言ってた。
「上等な刀は、鞘に納まってるもんだ。」

抜かない刀を見ると、全て名刀扱いするのもどうかとも思うが、切れ味を試すための下らない決闘なんかするよりはましだ。

俺が腰に差してるのは、野菜すらまともに切れないような、錆び付いたナマクラだ。
勇も、それを表す技量もない。
わかってる。
だから抜かない。

どうせ抜いても切れないなら、今は刀をひとまず置いて、俺は「武士道」から学んでるのさ。
今日は「第五章・惻隠の心」まで読んだよ。

自分にとっては、自分の気持ちや人の善意を受けることがその第一歩だ。
でも「そのまま」を受け入れることって、難しいよ。

もちろん負け惜しみだけど、環境が急に変わって気持ちが遊びを欲してるんだ。
ちょっとサムライごっこくらいさせてよ。

俺には無理だけど、やっぱりカッコイイんだよ。
サムライ。

憧れるくらいいいじゃん。



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 ■ 2003/12/23 (火) 配属初日


Aさん「テンカンブ」の連絡は…。
俺「転換部?展観部?点火部?てんかん部?…。」

正しくは「店幹部」。
聞き返せばいいんだろうが、それも出来ず、業務終了間際でやっと理解できた。

世間様のスピードについて行けていない事を「はじめまして」の挨拶からわずか数分間で、あっさり思い知らされる。

仕事内容は、主に店内巡回と出入りチェック、それに施錠・閉店業務の3つだ。

こう言うと簡単そうだが、とにかくその前提となる、階段、出入り口、通路、防災設備、関係者のいる部署、売り場の配置…などを覚えるのが本当に大変。
今の俺には本当に文字通り迷路だ。
警備員がそれじゃ話にならないな。

それに加え、店長、副店長の「店幹部」を始め、自分の会社の所長、関連部署の各責任者、それにもちろん同僚になる人の顔と名前を一致させなくてはいけないし、外線と内線で微妙に変える電話の応対も、間違えると即お客様からのクレームにつながるということで、軽んじられない。
初日の今日も既に、受けるのもかけるのも、一応一度づつする機会があったが、もちろん今の段階では、まるで子供の使いみたいなものだ。

一番楽な出入りのチェックも、外来と従業員とで違うし、外来でも、一般と配送とで違うし、従業員でも、IDカードだけでいい人と、バッジを渡しサインをしてもらう必要のある人と分かれる。
さらに、私物を専用の棚に置く許可を出すのにいちいち札を出したり、外来には社員証かそれに変わる身分証明書の提示を求めることもする。
それに何と言ってもコンピュータ制御された防災設備の使い方や、専用無線・携帯電話の使い方、シャッター・電子錠の閉め方、スプリンクラーの制御方法…もうわけがわからない。

そんな状態のまま閉店業務に入る。

モタモタしていると、入り口の施錠が閉店時間に合わなくなってしまうので、流れるように無駄のない手順でこなさなければならない。
まだ店内に残るお客様の邪魔にならないように、スムースにやらなければならないんだ。

で、この通常業務は何事もなく出来て当たり前で、肝心なのは、有事の場合だっていうんだから、たまらない。
初期の処置を適切に行い、店の損失を最小限に止め、お客様と従業員の命と財産を守り、同時に法律に従って、然るべき所へ通報することだって言うんだから、自信なんてないよ。

「〜でも」やるか、「〜しか」できない、っていう意味で「でもしか」仕事っていうとき、警備員って必ず例えに出るような気がするけど、間違ってるよ。

ちゃんとやろうと思ったら、そんなんじゃ絶対無理。
ちゃんとやろうとしなけりゃ、出来やしないし。

…俺にできるのかな。

幸い今日付きっきりで教えてくれた人は、気のいい、親切な人だったので本当に本当に助かった。

でも明日は、恐い人との業務になるらしい。
そういう人って、単にその人がうるさいというだけじゃなく、大抵「連れ」がいるんだよな。
「マーフィー」って名前の。

大丈夫かな。

そうこうしているうちに、終了時間の23:00を迎える。
あまり最近は行かないが散策の1コースになっている馴染みの道を歩いて帰途につく。
帰りに少し夜食を買って帰ると、いつもならもう寝ていてるはずの妻がこの時間まで起きていて迎えてくれた。
おまけに、お義母さんからのお裾分けのロールキャベツと南瓜の煮付けを時間に合わせて温めて待っててくれたみたいだ。

本当なら買い込んだそばめしとチキンライスのおにぎりとはあまり相性はよくないはずだが、美味しかった。

娘はやっと寝たということなので抱っこもチュウもあえてせず、寝顔を見るだけで我慢した。

この後、今日一日を振り返ってみて不思議なことに気づく。
なんと、ほとんど疲労感はない。
変に緊張もしなかった。

いや、実際は、気持ちも張っていただろうし、身体の疲労もかなりあるはずだ。

それでも今こうして、いつものように何事もなくPCに向かっていられるのは、きっと寝ないで待っててくれた君のおかげだね。

顔に吹き出物も出てないよ。

ありがとう。




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 ■ 2003/12/22 (月) Another One


顔の「おでき」は8割方治まる。
後はこの瘡蓋が取れれば、完治だ。

午後から散策。
玉川上水〜野火止用水コース。
所要時間は約3時間。

お目当ては、放送大学多摩キャンパスだ。

視聴学習室は日曜日にもかかわらず、人が少ない。
前回通り過ぎただけの「学生控室」に入り、新聞を広げ、いつもの水筒でいつもの烏龍茶を飲む。
他にも2人ほど学生(?)がいたが、そのうちの1人は備え付けのPCを独占して、画面とレポート用紙を交互に睨み付けている。
もう一人は、俺と同じようにリラックスして、教科書らしき本を読んでいる。

…なんかいい感じ。

知らない人が見たら、俺はまるで通い慣れた学生のように見えたかもしれない。
ここはどうやら、俺にとって最初からしっくりくる場所みたいだ。

もし本当に所属学習センターをここにしたら、別に視聴学習する必要のない日でも、向こう10年間、散策途中にこうして時間を過ごしたり、図書室から本を借りたりも出来るんだよな。

…なんかいい感じ。

4階に上がり、教室を隅から覗いていく。
殆どの教室で授業が行われていて、参加している学生の数も前回より多く、どこもほぼ満員だ。
それで、視聴学習室に人が少なかったのか。

見ると、みんな真剣な顔している。
俺がこの前まで出ていた研修とはえらい違いだ。

…なんかいい感じ。
本当にもう一度やれないかな。

家に帰り、研修期間中にチェックするつもりだった放送大学のHPを、今になってようやく開いてみる。
それに加え、前回持ってきた「学生募集要項」や「大学院」のパンフなんかを見ているうちに、どんどんその気になってきた。
大学院が出来たことは何となく知ってたけど、「臨床心理士」を目指す修士コースなんてのもあるんだ。

…ふーん。
…なんかいい感じ。

しかし、だ。

俺は明日から仕事に行くんだよ。
授業はテレビ・ラジオに限定して、留守録しまくってなんとかするとしても、肝心の「単位認定試験」に休めない。
登録料をドブに捨てるようなものだ。

…。

今までやろうと思えば出来たはずなのにすっかり忘れていて、やっとやる気になった途端思いも寄らぬ要素が、それも最悪のタイミングで入り込んで…これって確か「マーフィーの法則」とか言うんじゃなかったっけ。

こんな古くさい流行に今頃陥るなんて、俺らしいと言えば俺らしいか。

やれやれ。


(約2時間後)

ハンディモップでテーブル下の畳の埃を掃除していると、明日から通う会社の記事が載っている求人広告を釣り上げる。
少しの埃を払い、赤い丸印でチェックしてある箇所の「待遇」欄をよく読むと、なんとそこには、本当に小さい字だがしっかりと「半年後有給休暇10日付与」って書いてある。(おまけに賞与年2回。ホントかよ)

ってことは、入社日は12月15日で、単位認定試験は7月25日〜31日だから、間に合うじゃん。
お金貰いながら、試験も受けられるのか。

…いいかも。
これは、いいかも。

来年の2月16日までか。
えっ、インターネット出願なんてのもあるよ。
ホントに便利な時代だな。


明日は、13:40出勤だから、今日はこのまま「なんかいい感じ」を出来るだけ引っ張って、長い夜にしよう。
長い時間「面白そうなこと」を考えるなんて、最近あまりなかったし。

本当ならもっと早く、研修中にこうしたかったんだけど、実際そんな余裕は全くなかった。
これから仕事に入ればそうなることも、もっと多いだろう。

だから、「いい感じ」が向こうから不意にやってきたら、「育てる」ことを学ぼう。

流木に掴まりながらだって、リンゴくらい囓れるはずだ。
何も見過ごす事はない。
有り難く、いただこう。

この「なんかいい感じ」を育てよう。
「闘わない」こととも共生できるはずだ。

自分の中の「いい感じ」を消さずに大きく育てることが出来たら、それがいずれ今の里山のような存在になってくれるかもしれない。

現実の丘陵に加え、自分の心の中に散策出来るような「里山」が出来たら、俺はひょっとして大丈夫なんじゃないか。
よくわからんが。

とにかく、近くになんか気になる森を見つけたぞ。
「八国山か…前に行ったことあるはずだけど、あんまり覚えてないな」
ここに引っ越してきたとき、こう思ったはずだ。

再度森に足を踏み入れて、どうだった。
俺を助けてくれる大事な場所になったじゃないか。

放送大学も同じにはならないか。
「デジャビュ」だよ。
もう一度、最初は尾根道だけでもいいから、足を踏み入れてみるんだよ。

…なんかいい感じ。

そうだ、この気持ちとも闘うな。
どうせ闘ったって勝てやしないんだ。

このままでいいんだ。
このままで。






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