放蕩騎士の徒然語り。

　私が師と仰ぐ作家の一人、栗本薫御大が逝去なされた。
　貴女の小説を見て私は歩いてきたのにな。
　なんとも残念極まる、心よりお悔やみ申し上げ候。
　もう貴女の書いたグインサーガは見ることが叶わぬわけか。傭兵イシュトバーンや犯罪王シリウスや印南少年に会えないのか。
　きっと貴女は私のことなぞ知らないだろうけど、貴女の小説を読んで、貴女の後を拙い筆とへまな演出で追いかけた、何万何千何百番目の不肖の弟子でありました。



【だって、つまり、ささやかなものから現実逃避するためにフィクション
ドラマ、ロマンというのは存在するのではないか？だから私は社会派ミステリーなんか書かないし、家庭小説も一切書きたくない】中島梓名義でのエッセイ「わが心のフラッシュマン」より



貴女の小気味のいい「ホームドラマ大っ嫌い論」がもう聞けないのは寂しい事よな。
　

　

私という存在には　何の意味が有るのだ。何の利益が有るのだ。


仕事も無く、存在の意味も無く、誰の利益にもならない。

いや、それどころか、私は害悪の存在になってはいないか？

　どうもおかしい。
　何を見ても不安や苛つきにしかならぬ。私は小鳥の鳴声や子供の声にまでヒステリーをおこす存在だったか？
　人々の姿を見るだけでヒステリーを起こす、今の私は一体なんだ？

　無神経な子供が嫌いなのか　思い通りにならぬ世界がいやなのか　
　それとも……ふがいない私自身か。




逆位置の【女司祭】：タロットで神経質やヒステリーをさす。
正位置の【月】：精神的な不安をあらわす。

『新型インフルエンザの特効薬売ります』…………とうとう斯様な詐欺が横行し始めたか。


災厄の喇叭が鳴り始めると、必ずその後で踊る悪党共が涌いてくる。

虚言こそは人類最大の武器にして最大の敵だ。人類を追い詰めるに隕石も悪魔も要らぬ。

酷い話だ。

　ふとテレビをつけたら、キャバ嬢の特集をしておった。彼女たちの暮らしぶり、理由、困っておる事、まあ……お決まりのレパートリーだ。
　
　アゲハ嬢やホステスは子供たちのなりたい職業の一つにもなっておるようで、それはそれで興味深い。
　古来より景気が悪くなると、人々は商人や貴人よりも吟遊詩人や手品師それに娼姫といった華やかな世界に目が行くらしい。

　風俗ライターをしている友人から聞いたが、あれはあれで気苦労が絶えず、才覚を要求される仕事のようだ（そのためか、あの業界で成功している姫君達は驚くほど堂々として真面目だそうだ）。
　

　しかしあの姫君達いつ寝ておるのやら。昼はモデル（雑誌があるらしい）夜は店にいるのでは一体いつ休むのかと。
　カップの姫君達よ、貴女方の美貌を持たせる為にも休息は充分にとられよ。貴方方が疲れて倒れてしまったとき、それはこの国に残った数少ない銀貨の回り場が消えるときだ。
　貴女方の七つのカップを美しいもので一杯にしておいておくれ。





☆カップの７：トランプで言う《ハートの７》、夢を追うことや分かり易い美しさを指す。

　病魔に怯え、我先にとマスクを買いに走る。今我等を殺すに剣も鎚も要らぬ。ただデマだけで、我等は理性を失うことができる。
　恐怖が笛を吹き始めたら注意なされよ。パニックという名の笛を。




さて……そろそろ辺境住みの我々にも降りかかってくる頃合いかな？
まあ、この国は自殺者の方が多かろうがね。

　一つだけ。
　仕事で貯めた銀貨が、資格習得（一度で受かるわけ無かろう）や税金で消えていくのは……まっこと悲しいものよな。

　タロットカードに【力】というカードがある。獅子座をあらわし本能と精神の決断力を支配するカードだ。
　それが逆転するとどうなるか？それらが無くなるのだ。意志の弱さや無能といった状態があらわされる。そしてそのまま【戦車】の逆位置（挫折　諦め）となる。


　さて、私は無能な人間だ。なんとなれば進言や叱責をばねにすることが出来ぬのだから。自らの仕事の全てを把握して何をどう為しているか把握する。……考えただけで寒気がする。


声も出せるし　挨拶の類もきちんとする。　人と話すのは苦手ではない。　だが……優秀さを求めるのは御勘弁を。そしてそれが故に無位無官の半ニートたりえる。


　ところで最近、人が仕事をしているのをみるのも嫌に成ってきた。こう……ドラマなどでよくある『特定の分野（大体料理人や医者、昔はパイロットなどが多かった）に入った若輩が挫折しながらも成長していく』の類（バンビーノ！など）が全く受け付けなくなったのだ。
「これは……『之くらいのことは乗り越えて成長せよ、でなければ社会生活など不可能だ』という嫌味か？」と考えてしまうのだな。


　上に行きたいのならどうぞ御随意に。天上宮は遠かろう、足を踏み外さぬようしかと行かれよ。だが……上に行く気力の無い無気力者にも昇れとせっつくのは……これは何の責め苦やら。

　今日友人に言われたのだが……「お前……恋愛とか興味ないん？てかもっと露骨な表現で言えば性欲ないわけ？」
　友よそなたはいつも鋭いな。まったくそのとおりだ。暗い我が居城には姫はいらぬ、公子もいらぬ、音楽と書物と、友と交わす手紙があればいい。
　
　私は外を歩くのが好きだ。垢抜けない辺境の町々を歩くのが好きだ。山奥の小さな道を竹藪を朝日に輝く廃墟を歩くが好きだ。

　されど　我が楽しみの中に、恋することや、一夜を艶く焦がれる姫との情事ははいっておらぬのだ。
　生々しい、リアルな関係は我が望むものではない。


　しかし……散歩や建物観察や読物や音曲や道楽学問に興味を示すのは……子供の時分に戻ったかのようだ。思うに……男は２５を過ぎれば趣味が昔に戻るのではないかな？
　
ニコニコ動画でも最近は料理番組しか見ぬからの。ゲームを見ない辺り本当に心がガキに戻っておるのやも。


　しかし友よ、私はそなたの　その快活さと　何事も全力で取り組める勇士の如き活力が少々羨ましい。
　私が　トリックスターを気取っておるのは　本気になれぬからだ。

　思うのだが、なぜ人は気の滅入るニュースや泣きたくなるようなニュースだけの新聞を読むことが出来るのであろうか？
　
　なぜ私はここまで人と触れずに日をおくれたのだろうか。
　
　思わぬ　感じえぬ　なにも　私に未来はない。